同じメーカーのモーターでも個体差や特性が違う理由

モーターの個体差の出る理由は、製造時の数ミリから数ミクロのズレ、エンジンの慣らし状態(焼きムラ)、不具合などによる部品交換や整備の状況などがあります。モーターは公式データの2着内率のデータ以外にも判断要素があります。

モーター個体差

コーナーで競う競艇のレース

競艇で使うモーター(エンジン)とプロペラは節ごとに抽選で選手に貸し出されています。
抽選にする理由はモーターごとに優劣があるからです。
モーターごとの2着内率、3着内率を公開されていて、優秀なペラは2連対率で50%以上を確保していて、「エースモーター」、「超抜モーター」と呼ばれています。
プロペラに関しては木製ハンマーで調整することが認められていますが、モーターそのものが悪いと調整で補える範囲は限られていて、直線の加速、伸びで優秀なモーターと明確な差が出ています。

差の出る理由

競艇で使うモーターは全て同じメーカーの同じ型です。
現在はヤマハ発動機の水冷2サイクル縦型直列気筒396.8ccの300型と呼ばれるガソリンエンジンを使っています。
1年に1回、競艇場ごとに一斉に入れ替えを行っています。(入れ替え時期は競艇場によって異なる)

モーターに個体差の出る理由は、製造時における数ミリから数ミクロによる若干の差と、使用状況による劣化や摩耗によるパワーダウンです。
つまり、モーターの性能は時期によって差が変わってきて、1年に1回の入れ替え時期直後はモーターに関するデータがリセットされてしまいます。

オートバイや圧縮率が高くてパワーの大きいスポーツカーに乗っている人であれば、エンジンに当たりとハズレがあって、乗り方によってエンジンの摩耗状況に差の出ることが分かると思います。
特に2ストエンジンは差が出やすく、一昔前の原付バイクはエンジンによって最高速が5km前後差の出るケースがよく見られました。

また、エンジンの燃焼室やピストンは、焼けてカーボン(スス)が出ると滑りがよくなりまります。
均等にエンジンが焼けるように、慣らし運転をするもので、競艇のボートも多少の慣らし運転をしているもの、燃焼効率の良い焼け方をするエンジンとムラができてしまうエンジンが出てきます。
新品後の慣らし状況は、その後にどんどん差が大きくなっていきます。

また、競艇はレース数が多いためエンジンの負担が大きく、1年の使用期間の中でも部品交換を行っています。
特に注意しないといけないのがクランクシャフトとシリンダーケースの交換です。本来は1年で交換するべき部品ではないので、よほど摩耗の激しいことを意味しています。
大掛かりな部品は交換しても、新品に比べてパワーが劣ってしまいます。

ほかにも前走で転覆すると、電装パーツを交換している可能性があり、大きなパワーダウンになります。モーターは前節でトラブルがないか直近で大掛かりな整備をしていないかを考慮しないといけません。

チルト調整で特性が変わる

選手はプロペラのほかにモーターの取り付け角度を任意で調整できます。
取り付け角度のことをチルトと呼び、競艇場ごとに上限、加減の角度が決められています。

チルトを高くするとエンジンの伸びがよくなる一方でコーナーのグリップが落る弊害が出てきます。
ハズレモーターで大外枠を引いた時は、イチかバチかの博打でチルトを高くする選手が多いです。
スタートダッシュが上手に決まり、1コーナーでまくりができれば、その後はスピードを落とさずに走ることで波乱のレースを起こせます。

ベテランの予想師になると、走っている音を聞くだけでもモーターのよし悪しを判断できると言われていますが、直線の調子が良くてもチルトを高くしているだけのケースがあります。
ボートの状態、展示タイムなどを見るときは、直線やタイムだけではなくチルトの角度も併せてチェックしましょう。

少額の舟券購入で穴を狙いたい場合は、チルトを高くしている選手を買う手法が人気です。

整備重要性

整備に使うネジ

競艇にはかつて整備の名人と称される選手や整備士が存在しました。
しかし、モーターやボートでの優劣を少なくした現在の新プロペラ制度(2012年導入・持ちペラ制廃止)によって、そう呼ばれる人は少なくなりました。

新プロペラ制度でできること

現在の新プロペラ制度では、開催日前日にモーターの抽選が行われ、整備できるのはボートレース場内、プロペラ調整で使える工具は主に木製ハンマーのみとされています。
モーターやボートの性能差は、製造工程で生まれる僅かな個体差と、プロペラの調整による2つの要素によって生まれます。
エースモーターや超抜モーターと呼ばれるものの大半は、製造された時点で他のモーターよりも優れた性能を持っている場合がほとんどです。

整備力があるA1級選手が乗った後に、そのモーターの成績が良くなるケースもありますが、整備やプロペラの調整で補える範囲が限られているため、それも昔に比べると微差になっています。

プロペラ職人と呼ばれた赤岩善生選手

赤岩善生選手は2019年3月現在もA1級で活躍するトップ選手ですが、持ちペラ制時代は完調宣言をすることも多く、プロペラの調整力はトップクラスと称されていました。
持ちペラ制廃止以降も安定した活躍をしていますが、G1およびSGのビッグタイトルで見ると、2012年のオールジャパン竹島特別(G1)以降に優勝歴がありません。

新プロペラ制導入以降もその調整力は健在で、エースモーターを引いた時は持ち前の整備力を活かして圧倒的な強さを発揮します。

競艇場の整備スタッフ

1998年に持ちペラ制が導入される以前は、ペラやモーターなどの調整は競艇場ごとに配置された整備チームが一貫して行っていました。
当時は整備力を競う競技会も行われるなど、整備スタッフの腕も競艇予想の指標としてかなり重要視されていました。

昭和後半は、びわこや多摩川の整備チームの評判がよく、特に多摩川の整備長小川精一氏は選手の間から「整備の名人」と称されていました。

持ちペラ制導入以前の昭和の競艇では、現在とは比べものにならないほど、ボート・モーター・プロペラに顕著な性能差が出ていました。
整備もバッチリ行われた超抜モーターさえ割り当てられれば、外枠のB級選手がインコーススタートのA1級選手に勝つことさえ頻繁にあったのです。